沙霧、沙霧、と何度も呟く泡雪の頭を、沙霧の腕がふわりと包んだ。





「泡雪?」




「………くな」






泡雪の呻くような声に、沙霧は「ん?」と訊き返す。





「………沙霧、行くな」





泡雪が顔を上げた。



切なげに歪んだ面持ちの中で、潤んだ瞳が月影に煌めいていた。




息が詰まるほどの強さでしがみついてくる泡雪。





「行くな、行くな………」




「………どうしたんだい、泡雪」




「どこにも行くな」




「…………」




「私を置いて行くな、沙霧」





沙霧はふっと目もとを緩め、頷いた。






「………どこにも行かないよ。

行くわけがないだろう?

泡雪を置いてなど………。


ただ、目が覚めてしまったから、なんとなく外の空気を吸いに出ただけだよ」