「嬉しそうだな」




疾風と玉梓の洞穴を出た後、泡雪は沙霧を見上げて言った。



沙霧が鼻歌を口ずさみながら歩いていたからである。




沙霧は眉を上げて泡雪を見下ろした。





「まさかわたしが名付け親になれるなんて……まさに寝耳に水だったからなぁ」





沙霧が浮かれたように言うのを、泡雪はじっと見つめていたが、唐突に、





「そんなに子どもが好きか」





と口を開いた。




沙霧は「そうだなぁ、可愛いからなぁ」と頷いた。





「………それなら、自分の子どもはもっと可愛いだろう。

前にも言ったが、私が生んでやるから、安心しろ」





泡雪が真面目な顔で告げたが、沙霧の顔はぽっと紅潮する。





「そ……そうか、ありがとう……」





それ以上どう答えればいいのか分からず、沙霧は口ごもって視線を逸らした。




それを訝しげに眺めていた泡雪だったが、次の瞬間、





「…………?」





ふいに耳を動かし、周囲にぱっと目を走らせた。