泡雪は初め、沙霧以外の人間に対して警戒感を隠さず、距離をとっていた。




しかし、四六時中うしろをついて回る泡雪を連れ、沙霧は男たちのもとに何度も通い、人間との会話に慣れさせようとした。




そのうち少しずつ泡雪の警戒は解れていき、最初のうちは必要最低限の言葉しか口に出さずあとは無言を通していたのに、徐々にちょっとした会話に応えるようになっていた。







「雨垂れ石を穿つ、というやつだなぁ」







たまたま通りかかった氷見と天気の話などをしている泡雪を見つめながら、沙霧はしみじみと呟いた。








「しかし今日は本当に冷え込むなぁ。


泡雪、そんな薄着で寒くないのか」






「寒いのは嫌いじゃない」






「それにしては、珍しく沓を履いているじゃないか」






「沙霧が履けとうるさかったからな。


私は別になくても平気なんだが」






「そうか、世話焼きの亭主を持つと大変だなぁ」






「…………私と沙霧は、別に夫婦(めおと)ではない」






「はははっ、分かってるよ。


冗談だよ、冗談」






「…………そうか」