(僕は世継ぎ話などには疎いから、よく分かっていなかったけれど………。


奥津お兄さまは、ご自分が春宮になることをお望みなのだろうか)






そう考えると、奥津宮が幼い頃から沙霧宮に優るとも劣らず勉学に励んでいた姿は、ただの負けず嫌いなどではなかったのだと納得できる気もした。






(奥津お兄さまは、上に沙霧お兄さまという方がありながら、春宮の地位を望んでおられた。



そしてこの度、沙霧お兄さまが自らのご意志で内裏からお姿を消された。


そのため、奥津お兄さまは、ご自分こそが春宮におなりになるものと思っておられたのだろう)






ひときわ冷たい風が吹き、肩を竦めた朝日宮は、中庭の向こうの屋根ごしに見えるどんより曇った空を見上げた。






(奥津お兄さまが春宮の地位をお望みということは、もちろん、お母君である瑞雲殿の女御さまも、祖父君である兼正どのも、同じことをお考えなのだろう。


そして、やり手で知られる兼正どのは、娘女御のお生みになった皇子である奥津お兄さまを、なんとしてでも春宮にお定め申し上げようと、あらゆる手段を使って画策なさるのではないだろうか………)






そこまで考えて、朝日宮はふるふると頭を振った。






(いや、いくらなんでも、そんなことまでなさらないはずだ。


沙霧お兄さまは主上の御子であり、奥津お兄さまにとっては血の繋がった兄皇子だ。


兼正どのの一門が、その沙霧お兄さまに何か良くないことをなさるなど、あるはずがない………)






自分の心に浮かんだ暗い疑念を、朝日宮は必死で抑え込んだ。