これまでは、春宮には沙霧宮が定まるものと思い込んでいたので、他の兄皇子たちの気持ちなど考えたこともなかった。




しかし、沙霧宮の不在という状況になってみると、それに次ぐ優秀な皇子とされていた奥津宮が春宮の地位を望むことは、当然といえば当然なのだと気がついた。






(それなのに、突然に僕の名が挙がるようになって、奥津お兄さまは僕のことを疎ましくお思いになっておられるのだ………)






知らず、白い溜め息が唇から洩れ出した。






(それに………沙霧お兄さまのことを)






眉根を寄せ、ぎゅっと唇を噛む。






(沙霧お兄さまのことを、『目の上のたんこぶ』とおっしゃっていた………)






朝日宮の心に、そのことが、強く引っかかっていた。




そして、許せなかった。





心優しく聡明な兄のことを、あのように侮辱するような言葉で表現されたことが、どうしても許し難かった。