「あぁ、ちがうよ、泡雪。


櫛は髪に当てるんじゃなくて、髪の流れに合わせて歯の部分で梳くんだよ」







「……………」







泡雪は難しい顔で櫛と睨み合ったあと、黙って櫛を沙霧に差し出す。





沙霧はそれを右手で受け取り、傍らに座り込む泡雪の肩に流れている、癖のない真白の髪の筋を左手にとった。







「こうやって、髪の束を手にとって。


この歯の部分を毛筋に差し込んで、下のほうに梳いていくんだ。


そうすると、髪のもつれや埃などを、櫛が取り除いてくれるんだよ」






「ふぅん………」






泡雪はしばらく沙霧の手つきを見てから、すっと櫛を取り上げ、見よう見まねで髪を梳きはじめた。






無心に櫛を扱うその姿を、沙霧は、なぜだか泣きたいのを堪えるような気持ちで、じっと見守っていた。