「………黄楊の櫛は、とても髪に良いんだよ。


これで髪を梳くとたいそう指通りがよくなる、といって重宝されている。



しかも、丈夫でなかなか歯が折れないから、長く使えるんだ」






「ふぅん………」






「あと、椿油を染み込ませた綿で櫛を拭いてから髪を梳くと、つやが出るんだ。


まぁ、この白縫山で椿油を手に入れるのは難しいだろうが………。


君の髪はもともときれいだから、必要ないな」






「…………ふぅん」






泡雪には、容姿のことなどよく分からなかった。





自分の髪が美しいなどと言われても、少しも実感が湧かない。






それでも。






「………お前は、髪がきれいなほうが好きなのか」






泡雪の問いに、沙霧は驚いて手を止める。




泡雪の顔を見ると、真剣な面持ちをしていた。






「………まぁ、そうだな。


別に、どちらでもいいんだが、きれいなのに越したことはないんじゃないかい」






「ふぅん………」







泡雪は胸から腰へと流れる自分の髪を指に絡め、じっと見つめた。






「………じゃあ、これからは、ちゃんと手入れをすることにする」







沙霧はとうとう、小刀をぽとりと取り落として、ぽかんと口を開いた。