自分の洞窟に戻ると、沙霧はすぐに小刀を取り出した。





胡座をかいて小刀を砥ぎはじめた沙霧の横に、泡雪も座り込む。







「…………何をしているんだ?」







泡雪は不思議そうに首を傾げて、沙霧の手元を見つめている。




沙霧はちらりと泡雪の横顔を見て、砥石を持ち上げた。







「この石で擦ると、刃が鋭くなって、切れやすくなるんだよ」






「ふぅん………」







泡雪は手を伸ばそうとしたが、沙霧がさっとよける。






「危ないからだめだよ、泡雪。


今度、使い方をちゃんと教えてあげるから、今日は見ているだけにしなさい」






「…………ん」







泡雪は頷いて手を引いた。




あまりにも素直なので、沙霧は泡雪の頭を撫でてやる。






「いい子だなぁ、泡雪は」





「…………知らない」






泡雪はつんと唇を尖らせ、ふいっと視線を逸らした。







「お、もしかして、照れているのか?」






沙霧がからかうように顔を覗き込むと、泡雪は嫌そうに沙霧の頬をぺちりと叩いた。






「うるさい。早く作れ」





「はいはい」






沙霧は明るい笑い声を上げて、黄楊の木片を手に取った。