「はるか南の、薩摩(さつま)の国で採れる黄楊(つげ)の木切れだよ。



どこぞのお屋敷に盗みに入ったときに見つけて頂戴してきたんだが、使い道がなくてそのまま忘れていた。


お前が使ってくれるのなら、ちょうどよかったよ」







「あぁ、黄楊か。


櫛にはちょうどいいな。


ありがとう、疾風」







木片を受け取った沙霧は、質を確かめるように表面を撫でる。







「…………うん。


緻密でほどよく堅くて、木目もきれいだ。


ずいぶん良いものだな」







手渡された泡雪は、少し眉根を寄せてふんふんと匂いを確かめた。





沙霧はくすりと笑って立ち上がる。







「さあ、さっそく作るぞ。


行こう、泡雪」






「ん」







並んで出て行く二人の後ろ姿を眺めながら、疾風は笑いが洩れるのを抑えられない。






(ずいぶん仲が良いなぁ。


微笑ましいことだ)