泡雪がそのまま口に運ぼうとするので、沙霧はその手をそっと掴んで止める。







「こら、泡雪。


もうすぐ夕飯の時間だよ。


つまみ食いはいけないよ」






「…………あ、うん」







泡雪は、何度も言い含められていたことを思い出し、すぐに手を下ろした。





これまで泡雪は、食べたいときに、食べたいものを、食べたいだけ食べていた。




そのため、人間らしい習慣に、なかなか慣れずにいるのだ。






椎葉の上に戻した肉片をじっと見ている泡雪の姿に、沙霧は少し心が痛む。







「…………わたしの独りよがりかも知れないなぁ」






「…………?」







泡雪は目を上げ、沙霧の顔を見つめる。





沙霧は眉を下げて、苦い笑いを頬に浮かべた。







「君には君の生き方があるというのに、無理やりにここに連れてきて、わたしたちの生活のしかたを強いるのは、わたしの勝手だろうか」






「……………」







泡雪は無言のままゆっくりと瞬きをする。





しばらく考えてから、薄く唇を開いた。







「…………お前の言うことは、よく分からない。



でも、私は、今の生活が嫌だとは思っていない。


前の暮らしに戻りたいとも、思わない」