「まぁ、疾風ったら、何も気づいてなかったの?」





「………だから、何に?」





「男って、ほんとに鈍いんだから………」






玉梓はくすりと笑って疾風の頬を撫でる。




子ども扱いをされた疾風は、玉梓を軽く睨みつける仕草をしてみせたが、すぐに表情を戻した。







「………それで、沙霧がおかしい、ってのはどういうわけだ?」





「なんていうのか………心ここに在らず、っていうのかしら」





「ほう?」





「今までは一日に何度も私の所に来て、具合は悪くないか、腹の中の赤子はちゃんと動くか、なんて訊いていたんだけど」





「そうだったなぁ」





「それなのに、ここ十日くらいかしら? めっきりその回数が減ったのよ………」







玉梓は心配そうに頬に手を当てて、深く溜め息を漏らした。





疾風は何かを思い出すように視線を上に投げたが、「ふぅん?」と首を傾げただけだった。