「ーーーねぇ、疾風」




「………うん?」







強欲な貴族の邸から頂戴してきた綿入りの夜着にくるまって冬の朝の惰眠を貪っていた疾風は、隣で髪を梳いている玉梓に声をかけられて顔を上げた。






「どうした、玉梓。


まさか腹が痛むのか?」







臨月が近くなって大きく張り出してきた玉梓の腹に、夜着の中から手を伸ばして触れる。




玉梓は「違うわよ」と軽く笑い、腹を撫でる疾風の手に手を重ねた。







「子どものことじゃないの。


ーーー沙霧のことよ」






「あぁ………沙霧がどうかしたのか」







疾風は身を起こして玉梓の顔を見つめる。







「…………沙霧ね、この頃なんだかおかしいと思わない?」





「え? そうか? どんなところが?」







全く寝耳に水といった顔の疾風を、玉梓は少し呆れたように見返した。