「そうか、それならいいんだが………」






沙霧はほっとしたように吐息を漏らした。




泡雪はふいっと視線を巡らせ、白く輝く雪の世界を見つめる。







「………やっとまともに動けるようになったから、少し外の空気を吸いたくなっただけだ」






「そうか、そうだよな………」







空気の澱んだ洞窟の中に十日近くも横たわっていたことを思えば当然だった。






泡雪は顔を仰向け、冴えた風を全身で受ける。




陽の光に煌めく白い長髪が、さらさらと靡いていた。





清らかな冷たい空気を深く吸い込む泡雪を見ながら、沙霧はくすりと笑う。





その声を聞き逃さなかった泡雪は、眉をひそめて沙霧を見上げた。






「…………なぜ笑う」





「いや………水を得た魚のようだと思ったんだ」





「…………は?」






怪訝そうな眼差しを受けて沙霧はにこりと頬を緩める。







「君にはやっぱり、雪が似合うなぁ、と思ったんだよ」