飛涼殿から退出した兼正は、足速に大内裏の中を通り抜け、宮城門の外に待たせていた牛車(ぎっしゃ)に乗り込む。







「宮さま、お待たせいたしました」







中には奥津宮が人目を忍んで乗っていた。







「お祖父さま、首尾はいかがでしたか」







奥津宮は待ちきれないようにすぐに訊ねてくる。




兼正は眉根を寄せて首を振った。







「………思わしくございません。


主上は、やはり、五の宮を待つおつもりらしい」






「…………ということは、兄を春宮に?」






「ええ………おそらく。


これまでは、どの皇子を春宮になさるのか、明言は避けておられたが………。



私のほうから春宮の話をお出ししたところ、とうとうはっきりと仰いました。



あれほど優れた皇子はいない、だから五の宮を春宮に据えたいのだと………」