「………宮さまのお気持ちのほどは、私のような賤しい者には解りかねますが。


五の宮さまはおそらく、内裏に戻って来られるおつもりは、もはやございませんのでしょう………。



何百もの人手を使って、どれほどお探し申し上げても、これまで一向に見つからないのは………。


紛う方なく、宮さまが、ご自身のご決意を持ってお隠れになっているからと存じます。



万が一、宮さまをお見つけ申し上げることが叶いましたとしても、宮さまご自身に春宮となるご所存がなければ、畏れ多くも、無駄なことにございます」






兼正は息つく間も惜しむように、一気に言い立てた。



黙って聞いていた帝は、すぐに是とは答えなかった。






「…………そなたの言うことは、よく分かる」






帝の言葉に、兼正は思わず、頬に喜色を浮かべる。




しかし、続く言葉は、兼正の期待を裏切るものだった。







「分かるが………それでも私は、まだ沙霧を待ちたい思いが拭えぬのだ。



あれほど優れた皇子は、百年に一人もおらぬだろうよ。


だからこそ私は、是非にも沙霧を春宮に据えたいのだーーー」