「………畏れながら、主上。


どうか、お心静かに、お怒りになることなくお聞き下さいませ………」






「………申せ」






兼正は懐紙を取り出して、こめかみを伝う汗を拭った。






「………誠に申し上げにくいのですが。



先日の宿直(とのい)の際に、公卿(くぎょう)たちで集まり、夜のつれづれに話しておりましたことです。


五の宮さまはもう、お戻りになられないのではないか………というのが、我らの一致した見解でございました」






「……………む……」






低く唸る帝の声が響いた。





兼正は追い討ちをかけるように、さらに言葉を続ける。







「五の宮さまがお姿をお隠しになってから、すでに一月が経とうとしております………」






「そうだなぁ………」







帝は気分を害したふうもなく答えた。