帝は「うん………」と小さく唸り、ゆっくりと語り始めた。






「私もそのことは考えている。


私の跡を継ぐ春宮を早く決めておかなければ、皆も落ち着かぬだろうからな」






「はい………」







兼正はほっとしたように口許を歪めて相槌を打つ。






「では、主上のお考えとしては、どちらの皇子にお跡をお譲りになるおつもりで………」






「それがだなぁ………」








微かな衣擦れの音が櫛形窓の向こうから聞こえてくる。




どうやら帝は顎髭を撫でているらしい、と兼正は思った。




何かを考えたり、悩んだりするときの帝の癖である。






「………なにか、お心にかかることがございますか」





「…………うむ………」





「それは、五の宮さまのことで………?」





「あぁ………」






やはりそうか、と兼正は眉根を寄せる。