「ーーーーー主上。


少しばかり、お時間を頂戴いたしてもよろしいでしょうか」






飛涼殿の南廂(みなみびさし)、殿上の間(てんじょうのま)で行われた朝廷の議が終わった後。



殿上人(てんじょうびと)たちが立ち去ってから、荻原兼正は一人、帝のもとに戻った。






「畏れ多くも、失礼を承知の上で、主上のお耳にお入れ申し上げたきことがございます」






帝の御所である昼御座(ひのおまし)と殿上の間を隔てる壁に設けられた櫛形窓に向かって、兼正は静かに声をかける。




腰を上げかけていた帝は眉を上げて頷き、答えた。






「………ほう?


何なりと申してみよ、中納言。



そなたは、奥津宮を産んだ我が女御の父ではないか、遠慮することなどないのだぞ」






「は、ありがたきお言葉………」






姿の見えない声だけの帝に向かい、兼正は深々と頭を垂れた。