それでも白狐の身体は身動き一つしない。






「泡雪…………泡雪」







沙霧はどうすればいいのか分からず、とにかく、泡雪の身体を蝕む矢を何とかしなければと、一文字の箆(の)をぐいと掴んだ。





その瞬間、狐の口から苦し気な呻きが洩れ聞こえた。






(………痛いのか。苦しいのか。


あぁ、なんということだ。


一体どうして、泡雪がこんな目にーーー)






沙霧は自分のことのように苦しかった。





心の臓を鷲掴みにされたように胸が痛い。



どく、どく、と動悸が収まらない。






胃の中のものがせり上がってくるように喉が苦しくなったが、ぐっと唾を飲み込んで堪えた。






(とにかく、ここにいてはいけない。


泡雪を射た者が近くにいるかも知れないのだ。


早く連れて帰らなければ)






深く突き立った矢に触れないようにそっと抱き起こした身体は、切なくなるくらいに華奢で細く、そして雪の花のように軽かった。