水汲みへと向かう沙霧の後ろ姿を、疾風と玉梓は並んで見送る。





「沙霧は………本当に、優しくて、素直な人ね」





玉梓は目を細めるようにしながら、小さく囁くように言った。




疾風も同意するように首を縦に振る。





「子供の頃からそうだったよ。


いつも穏やかに微笑んでいて、周りに対する気遣いを忘れなかった。



そして、乳母や女房たちの言うことでも、何ひとつ文句も言わずに聞き分けていた。


………素直すぎるくらいに」






疾風と玉梓の視線の先で、沙霧が水甕を抱えてよろよろと歩いている。



それを見て、何人かの男がからかうように声をかけた。




沙霧は明るく笑ってそれに応えている。





玉梓は膨らんだ腹に手を当てながら、ふっと笑って疾風を見上げた。






「ーーー帝の皇子なんて、遥かな雲の上の方だと思っていたけど。


沙霧は私たちとの間になんの線も引かずに、気さくに付き合うのね」