「ーーー沙霧。


ちょっと、お願いしたいことがあるんだけど」





女の声に呼ばれて、雪曇りの空を見上げていた沙霧はそちらに目を向けた。





「ーーーあぁ、玉梓」





声をかけてきたのは、白縫山で唯一の女性、玉梓だった。





その腕に二つの水甕が抱えられているのを見て、沙霧が目を瞠る。






「あっ、玉梓!!


だめじゃないか!!


身重だというのに、そんなに重いものを持つなんて!!」






そう叫んだ沙霧はすぐに駆け寄り、玉梓の手から水甕を奪い取った。




その慌てぶりに玉梓は笑いを洩らす。






「ありがとう、沙霧。


ほんとは他の仕事をお願いしようと思ってたんだけど、じゃぁ、水汲みをお願いしようかしら」





「あぁ、任せてくれ。


大事な身体なんだから、どうか、危険なことはしないでくれ。


食事の準備でも、洗濯でも、わたしに出来ることならば何でもするから、気兼ねなく声をかけてくれればいいんだよ」





心配そうに眉を顰める沙霧を見て、玉梓は柔らかく微笑んだ。






「優しいのねぇ、沙霧。


貴族や皇族なんて、威張ってばかりの嫌な人たちだと思っていたけれど、偏見だったのね」