教室から声がしたの。

耳を澄ませて聞いていると、耳を疑うような内容だった。


『…そういうわけで、雅人先輩、一緒に行ってくれませんか?』

女の子の声がする。そっと中の様子を伺うと、見たことがない子だった。多分一年生だとは思うんだけれど、誰なのだろう…?

とても可愛らしい人だ。こげ茶色のセミロングの髪を二つで結んでいる。清楚で、とても良い後輩、というような感じ。


『勿論いいぜ。楽しみだな!』

雅人の後ろ姿しか分からないので、表情はよく見えないけれど、声からして楽しそうなのは分かる。


え…?

何これ…

いいぜ、って、まさか。

まさか、デートの約束?

浮気?

いや、雅人に限ってそんなこと…

そう信じたいけれど、胸がざわつく。


『ありがとうございます!…あ、でも、先輩には彼女さんがいますよね?!私なんかと一緒に行くことにしてもらって、本当に大丈夫なんですか?』

女の子はとても心配そうに尋ねる。

『あぁ、大丈夫だ。あいつには関係ねーことだしな。それに2人きりのときは先輩って呼ぶな。あと敬語はなしな!』

『で、でも、一応、学校の中では先輩と後輩ですし…』

『俺らの仲だろ?』

『うぅ……』

黙り込んでしまった女の子。

その姿も可愛らしいのだけれども、今はそれどころじゃない。


どういうこと…?

雅人と…自分の彼氏と知らない女の子の二人が一緒に出かけることに、あたしは…彼女は、関係ないことなの?

俺達の仲…ってそんなに仲が良いの?

ねぇ、雅人、どういうことなの?

あたし達付き合ってるのよね?

そうなのよね?

そう、なのよね…?