右手で小さなストローク、小刻みにボールでテンポを刻むと、皇律子がわくわくを孕ませた表情でそれを視線で追いかける。


やはりこの女、かなり『出来る』プレイヤーである。


ボールを捌く中で、小さなフェイクを加えてスピードに緩急を付けても、自信を持って反応しない。


無理矢理に脇を縫って走ろうにも、速い方である俺に対しても、余裕の表情でベッタリとマークして追い付いてくる。


再び足を止めてダン、と踏み出していた左足の方へ右からボールを潜らせると、更にはしゃいだ子供のように、大きな瞳を輝かせた。


こうなったら……トラベリング覚悟でやってみるか。


右足を上げてバッと左からボールを通し、しっかり上げた右足を突いてボールを取ってから、瞬時に左足を上げる。


「!!?」


その動きに疑問を抱いた皇律子が一瞬動きを止めたのを視界の端で確認し、一瞬の隙を突いてゴールのバックボードヘ向けてボールを投げる。


それがボードに届くのを確認する前にクルリと右足でターンして皇律子の小さな体を置き去りにし、跳ね返ってきたタイミングでジャンプ。


そのまま体をヒラリ、と跳躍させてボールをキャッチし、俺はゴールリングへボールを押し込んだ。


現役から退いて一年。まだ、この177センチの小さな体でも、俺はダンクをすることが出来る。