マスターは、カウンターの向こう側で皿を洗いながらわたしに質問する。
「もう野球も２年やっていないわけだし、もう再開するのは無理かな。まあ他に、特別これやりたいっていうものはないんやけどね」
「突然だけど、演劇なんて興味ない？　昨日、２年生の子が『メンバーを探している』って言ってこれを置いていったんだけど」
　マスターがそう言って取り出したビラには《第３０回　若者の祭典　演劇部門　地区大会募集要項》とあった。そして、その横には、手足のある地球が絵を描いていたり、将棋をしていたりしている絵があった。
「私の高校のころは、演劇しはる人って結構もてたんやけどね。ほら、おばさんが高校生のころ学生運動が盛んだったから、いろいろなところで政治劇をする機会があったのね。だけど、今は人気がないみたいなんだけど、やってみると面白いんじゃない」
「演劇……。学生運動で政治劇やってる時代じゃないし、興味ないわ」
　わたしは、募集要項に書かれた奇妙な地球を見ながらそう答えた。

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　これがわたしと演劇の出会いだったんだよね。言ってみれば、若者の祭典はわたしの演劇の原点だった。そして、原点に二年ぶりに戻ってきたわけか。でもその時、わたしは演劇の誘いを断った記憶がある。結局、わたしはどうして演劇にのめりこんだんだっけ。
　確か、あの後しばらくして弘が喫茶店に来てそこで説得されたんだっけ。
　わたしはベッドの上で大きく息を吐いた。

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