見て見ぬふりをして自分の席に座ろうとする。

すると伏せていた男の顔が上がった。
目が合う。

男は何も話しかけてこない。
じれったい。

「おはよう。」

しびれを切らし私から言う。

「……。」

返事はない。イコール無視だ。
イラッとしながら席に着く。

「おはよう。」

声がした。思わず目を向ける。
その声は間違いなく隣の席のあいつ。
星野 涼太。

ついびっくりする。

「え、なに?そっちから挨拶したんじゃん。」

あ、そうか。ただ答えただけか。

「あ、そうだよね。ごめん。」
「水無月って笑わないよね」

え、急に?

「そうかな。星野も笑わないじゃん。」

「笑うよ。ただ笑うネタがないだけ。」

「私もそうだよ。」

「はは。」

あ、笑った。

「水無月ってもしかして、めんどくさいことにならないように
 友達作らないタイプ?あ、もしかして作れない?」

「友達ぐらい自分で作れるよ。でも…いらない。
 だってもう怖くって。」

少し笑って言う。

「はは。何それ、女の性格が?
 それとも中学の時襲われでもしたのか?はは。」

きっと冗談だと思う。本気じゃない。

でも、無理に嘘をつこうにも、両方味わっている私には重かった。

「……。」

空気が凍る。

「え、俺、今うざいこと言った?」

少し申し訳なさそうな星野の顔。
怒れない。

「……はは。」

無理矢理笑って目をそらす。

少しの間。



「ごめん。」

何分か後に放たれた言葉。

私はそれには答えなかった。

少しずつ人が入ってきて一時限目の英語が終わる。

私は一つの単語も覚えていなかった。