「ねぇ、綾菜ちゃん。あのドレス、可愛くない?」

桜庭さんが指差したのは、白く綺麗なビーズの花が散りばめられている
ウェディングドレスだった。

「女の子の憧れだよね。
大好きな人と新しい家族を作って、幸せになって。」

そんなもんなのかな。きっとこのウェディングドレスを
ただつられて見ているだけの私はきっと、
「女の子の基準」から離れているだろう。

だってしょうがない。
興味ないんだもん。

「綾菜ちゃんは中学の時彼氏いた?」

彼氏?ああ。それらしき人なら、一人いたかもな。
初めて私が好きになった人。
この人の為なら死んでいいって初めて思えた人。
この思いを伝えられないまま絶対に終わりたくないって思えた人。

だから、告白した。

すると結果は嬉しい物だった。
あの時はどれだけ嬉しかったっけな。でも、終わりは早かった。
見たのは女の子と歩いてる私の彼氏。

そしてその彼も私を見つけたらしく、
目があった瞬間顔が少し焦っていた。

そして彼は私のそばに来てこう言った。

「お前の事なんか最初から好きじゃなかった。保険だったんだよ。
 もうメールとかしてくんな。うざいから。」

あの時は衝撃だったなぁ。どれだけ泣いたっけ。
自分の命を捨ててまで愛せると思った人。
だけどその人は私なんて視界にも入っていなかった。

思えばその頃かもしれない。

私に笑顔がなくなり、誰も信用しなくなったのは。


「いなかったよ。」

私はそう答えるしかなかった。