「とりあえず正式に決まった話だ。ガキの話は聞きたくない」

父さんはそれだけ言うと、愛人の肩を持って家を出ていった。

じゃあ母さんはもう家に帰ってこないかもしれない。

そう分かっても、全然寂しいとは感じなかった。

「大変ですね、久我家もなかなか」

俺が下を向いて気が抜けたように突っ立っていると、頭上からのんきな声がした。

誰か確認せずとも分かる。

「またお前かよ……」

自称天使局チーフのそいつ。

俺が面倒くさそうに言う。

「また、とは失礼ですね!天使局チーフの影山ですけど?」

「あ、影山っていうんだ」

影山は浮いたまま俺に言った。

「で?答えは決めました?1日僕仕事サボれたのであとは早く天国の方に戻りたいんですよ」

「ああ…」

今日の授業を上の空にしてまで考えたことだ。

俺はふわふわ浮いている影山の顔を見た。

「ひよりの1ヶ月間の再生、頼んでもいいか?」

それを聞くと、影山は目を丸くした。

「いいんですか?代償はあなたの命ですよ?」

「いいんだよ。ひよりが生きていたら掴んでいたかもしれないものがあるかどうかをちょっと試すだけだ」

俺が言うと、影山はふーん…とちょっと興味深い顔でうなずく。

「分かりました。また会いにきますね」

影山はそう言うと、スッと消えてしまった。