「お前もいつからそんなにおろそかになった?まだ母さんとキッチリ暮らしてたときは、俺のご機嫌取りもっと上手かっただろ?」

今俺は…殴られた?

頬に伝う痛みと、口の中に広がる鉄の味。

父さんに殴られたのは初めてだった。

俺は頬を押さえてボーッとする。

「久我さんー?どぉしたの?」

また甘々な声が聞こえた。父さんの愛人の声だ。

すると、父さんは突然顔と声を変えて、“七海たん”に笑顔を向ける。

「なんでもないよぉ~。じゃ、そろそろ行こっか」

「あたしカルパッチョ食べたーい」

父さんは俺をジロリと睨み付ける。

「お前は早く社会に出てこの家から出ていけ。目障りだ」

俺はギュッと拳を握りしめる。

本当なら今すぐ父さんに殴りかかっているところだ。

だけど、それができない威圧感に気圧され、何も言えない。

ただ俺の口から絞りでた言葉。

「母さんと本当に離婚するのかよ…」

父さんは声を出さず無言で頷いた。

「お前にもそのうち言うつもりだった。俺はこの家を出るつもりはない」

「俺に出ていけって言いたいのかよ?」

「違う。母さん…美代子はきっと俺にお前を押し付けるだろう。だからお前と同じ家に住むことになる」

母さんが俺を捨てるってことか。

離婚するんじゃないか、昔から不安だったけど、父さんに引き取られるのは意外だ。

母さんはずっと愛人と2人いたいのかもしれない。