「今日もつくる気しねーなー…。またコンビニ行くか」

独り言を呟きながら家のカギを取り出す。

しかし、カギが空回りする。

……開いてる?

俺は鍵穴からカギを出すと、ドアノブをゆっくり回す。

ドアを開けると、そこには見慣れていない黒い革靴とハイヒールが。

すぐに家の中に誰がいるのかが分かった。

わざと「ただいま」を言わずリビングの前に立つ。

「久我さんの家本当に広いー。私この家に住みたいなー♪」

「いいよいいよー。これから一緒に住もっか?」

やっぱり。予想した通りだった。

父さんとその愛人。

3ヶ月に一回くらい、父さんは仕事をサボって愛人と遊びに行く。

その帰りに、フラッと自宅に帰ってきて、またすぐに行ってしまう。

慣れた光景だから、俺は帰ってきたことを父さんに知られないよう、自室に父さんたちが帰るまでじっとする。

母さんにチクる気はない。母さんだって愛人がいるからだ。

そんな二人の間に生まれたことを、俺はとても不幸に思う。

「どうぞ楽しんでください」

俺は諦めたように小さい声でリビングのドアに向かって言う。

自室に行こうと足を動かしたときだ。

「どうせ奥さんとの離婚は決まってるから、今すぐにでも一緒に住めるんだけどねー。息子がここにいるからさ」

父さんの甘々な声の言葉に、俺ははたと立ち止まる。

今…何て言った?

自分の耳を疑った。

「母さんと……離婚?」