「…流ちゃん、ずるい…。」
夏実らしくない、か細い声。
真っ赤になった頬を隠すように俯いたまま…
俺の服の裾を、片手でギュッと掴んだ。
「…っ……………。」
なんだこの行動。
全然予想してなかった。
…夏実を照れさせるはずなのに、今めっちゃドキっとした…。
あーもう、どんだけ惚れさせたら気が済むんだ?
…いや、惚れさせてる自覚ないんだから、気が済む以前の問題か。
だとしたら俺、どれだけ平静を装えるだろう…
服の裾を掴まれたまま、俺はそんなことを次から次へと考えていた。
「…ねぇ、流ちゃん。」
顔を上げないまま、夏実がそっと言う。
「お願いなんだけど…。」
「お願い?夏実がか?」
こんな改まってするようなお願いって、何だろう。
夏実の言葉の続きを、静かに待った。
少しの間躊躇うようにしていた夏実だが、やがて決心したように俺を見上げて言う。
「昔みたいに…夏って呼んで欲しいのっ。」
…そういえば…
小学校くらいまでは、夏実のこと、夏って呼んでたな。
「流星が、流ちゃん。夏実が、夏。
私にとってそれは、すごく特別なの。」
なぜか必死な感じが伝わってくる。
たしかにその呼び名は、お互い誰にも呼ばれていない。
「流ちゃん」って呼ばれるのが俺にとって特別なように(皆の前で呼ばれるのはひたすら照れくさい)、夏実にとっても、「夏」って呼び名は特別なんだな。
そっか、それだって、思い出と同じように…
俺達が長い間傍にいる、証なんだ。
宝物でもあるよな。
そう考えると…夏実に、悪いことしたな。
「…分かった、これからは夏って呼んでやる」
そう返事をすると、夏はとびきりの笑みで、「うんっ!」と頷いた。
「…で、エネルギー切れかよ…。」
帰りの電車の中にて。
遊園地で…いや、遊園地に着く前からずっとハイテンションだった夏は今、俺の肩に寄りかかり、スヤスヤと眠っていた。
はしゃぎ疲れて帰り爆睡って…
なんだよそのオチ。
小学生かっつーの。
心の中で突っ込んでみるけど、寝顔も可愛いし、全力で楽しんでくれたってことだから、そんなに嫌じゃない。
むしろ夏らしい。
…それにしても、気持ちよさそうに寝るんだな…。
ってか無防備。
人目が無ければ、俺何もしない自信ないぞ?
「…流ちゃあーん…。」
「……………。」
なんだよ…俺の夢見てんのか?
「…すきぃ…」
「……………。」
「…やっぱ違う…」
「えっ」
「だーいすきぃ…」
「…ったく…」
夢の中でまで、なんなんだよ…
随分、喜ばせてくれるじゃねーか。
ほんと…
…お前には、敵わねぇ。
俺はそっと、夏の頭を撫でた。
「俺も…」
…大好きだよ、夏のこと。
END
作者)ネイロ☆ですヾ(o´∀`o)ノ
読んでくださり、ありがとうございました!
ほんとは、短編集にするつもりだったんですけど…。
流星が夏実にベタ惚れなせいで←
胸キュンを、この一つのお話に詰め込んでしまった次第です。
良かったら感想お待ちしております♪
最後までお付き合い下さり、ありがとうございました!