蜜は甘いとは限らない。【完】





そして今日、今そんな俺は周りに部下を付けて空港にいる。



理由は、帰ってくるから。



…誰が、かは言わなくても分かるようにアイツだ。



2年なんて、待てねぇと思っていたはずなのに意外にもあっという間に過ぎていくもので。


知らない間に伸びていた髪を切った。


それでも少しだけ長めに切って貰い、ウザイぐらいに真っ直ぐ伸びた髪は全て後ろにワックスで流している。


顔に掛からないこの髪型が、実は少し気に入っている。




「…わ、…頭」

「…お前また間違えんのかよ。
なんだ?」

「少し、じっと出来ませんか」

「あ”?」

「さっきからずっと落ち着きがないですよ」









「…ほっとけ」

「姐さんに見られて、いんですか」

「……チッ」




…うるせぇと言い返せない。

舞弥が乗っている便は後数分でこの空港に着く。


それが分かっている俺は待ちきれなくてウロウロと同じところを歩き回っていた。



こんな時にじっとしてられるわけねぇだろ。


やっと、自分のモンが帰ってくるって時に。




「あ、わ…頭」

「んだよ?!」

「あれ、」

「あ?……っ、」





「あれ、拓哉、来てくれてたの?」




…短かった茶の髪は腰の当たりまで伸びていて、

白かった肌は向こうで焼けたのか少し赤くて、





「舞弥っ」





…あぁ、やっと帰ってきた。








その場でじっとこっちに歩いてくる舞弥を待つことが出来なくて、こっちに向かって手を振る舞弥の方へと走り出す。



早く、もっと早くっ……!!





「うあっ」

「っ」




舞弥の転がしていたキャリーバックが倒れるのも気にならないくらい、力いっぱい抱きしめる。



帰ってきた、やっと。

俺の腕の中に、居る。




久しぶりに抱きしめた体は仕事がハードだったのか、少し痩せていたけど舞弥の匂いだけは変わっていなかった。




「…拓哉、」

「ん?」

「……ただいま」

「…あぁ、おかえり」




それが嬉しくて首元に顔を埋めると、くすぐったそうに肩を縮めながらただいまと言った。



…柄にもなく、少し泣きそうになったのは自分の中だけの秘密だ。









「拓哉ぁー!!!」





バンッ




「…んだよ、今仕事中」

「エロ本読んでるのが仕事か!
没収するわよ?!」

「悪かった、謝るから捨てるのは止めろ!」

「じゃああんたもちょっとは手伝いなさいよ!」

「…だって俺の顔見たらアイツ、泣くんだぞ?」

「あんたが気持ち悪い顔で笑うからでしょ?!」

「気持ち悪いってなんだよ!」




ゼーゼー、こんなに毎日毎日怒鳴り続けてたら体がもたない。

今日はせっかくの休みの日なのに。



あの日、あたしが海外から帰ってきた後、あたしは直ぐに市役所に連れて行かれた。



なぜかって、結婚目前の恋人が市役所に行く理由は決まってる。



…婚姻届を書くため。









あたしはその日は疲れてたからやめようと言ったんだけど、あの馬鹿は聞かなくて仕方なしに婚姻届に名前を書いた。



そしてそのままスピード結婚なるものをした。



自分でも思う、早すぎる。


そりゃ、待たせたのはあたしかもしれない。

だけど物事には順序というものがあるでしょうよ!!



あと婚姻届も出す前に、あたしは隆哉さんになんの報告もしてなかった。


さすがにそれはダメだと思い急いで言いに行けば、




「あ、やっとかよ。遅かったのな」




…と言われた。


親が親なら子も子だ。



嵐川さんは今、実はずっと好きだったらしい女の人と暮らしている。

…あたしに全てを押し付けて、早くその女の人に会いたかったらしい。



なんでこう、周りの人達は普通のとはかけ離れた行動しか取らないのだろう。


あ、葵は国公立の大学に簡単に受かった。


出席日数のやばかった高校は少し難しかったらしいけど、テストの点が良かったから卒業。







…まぁ、多少は稀浬が手を回していてくれたみたいだけど。


今は高校の間に出来たらしい彼女と幸せそうにしている。


喧嘩もすっかり、なくなった。



…そして初めに戻るけど、あたしたちが喧嘩をしていた理由、それは。




「あんた瑞輝の父親でしょ?!
少しは抱っこくらいしてあげてよ!」

「俺下手くそなんだよ!
てか抱っこの仕方なんて知らねぇよ!」

「あんなもの慣れでしょ?!
もう瑞輝が生まれて五ヶ月経つんだけど!」




…あたしたちの間に生まれた、子供のことでだ。



こんなことで喧嘩してるのは可笑しい?
ううん、可笑しくない。


だって、




「俺には赤ん坊の世話なんて無理だ!」

「馬鹿か!」




拓哉が、あまり世話をしないから。








ていうか、出来ない。



おむつを変えるのにも時間がかかるし、抱っこしようとして落としそうになったこともある。



変に笑おうとして不気味な笑顔になったとき、瑞輝は恐ろしく泣いた。



あ、子供の名前はね。




寺島 瑞輝(てらじまみずき)




あたしたちにとっての光になって欲しいからと付けた名前。



実際あたしにはなってるんだけど、拓哉はどうもそれがわからないらしい。




「…ねぇ、あたし喧嘩疲れた、休憩」

「…同感、俺も」




毎日起こるこの喧嘩は、いつも瑞輝が寝てから始まる。


少しずつしか寝ない瑞輝を寝かせている時間だけしか、あたしたちに時間はない。


いや、正確にいうとあたしの時間はない。




「…まぁ、なんだ、」

「……何」

「…お疲れ様」

「…ありがと」




…でも、喧嘩のあとに疲れて座り込むあたしを抱きしめて頭を撫でてくれる拓哉が居るから、今まで頑張ってこれたのかもしれない。










「あたしさ、いつも思うんだけど、」

「ん?」

「…結婚したらもっとお互い相手に甘くなるものだと思ってた」

「…それ俺も」

「だよね」

「あぁ。だってお前、瑞輝が生まれてからヤらせてくれる回数減ったし」

「…死ね」

「生きる」




...やっぱり、甘くなくてもいいかもしれない。



それが、あたし達らしい気がする。




こうやって言い合いするのも、いいし。




「なぁ舞弥、」

「何?」

「愛してる」

「…馬鹿、」




ときどきこうして甘くなるのも、気まぐれなあたしちらしい。




「舞弥は?」

「……あたしも、愛してるに決まってんじゃない」




こうして好きな人と暮らしていくのも、人生の中の一興なのだから。














蜜は甘いとは限らない。【完】