「はぁ、今度はご飯作らないと」
片付けを始めた葵を見てやっと1つのことが終わったと思ったのに、まだあたしのしなきゃいけないことはある。
...料理、めんどくさい。
作るのは嫌いじゃないけど、なんでこんな大人数のご飯を作らなきゃいけないの?
しかも男ばかりだからどんなに作っても直ぐになくなるし。
「おい、舞弥」
ブツブツ言いながらも料理を始めるあたしに話しかけるのは、少し拗ねたような声を出す寺島。
「...なによ、寺島。
今ご飯作ってるから、相手しないわよ」
「...いつまで名前...」
「?
何か言った?」
今日作っているのはとりあえず簡単に煮物...のつもりだったのに大量に具材を切らなきゃだし、あまり良く染みないということで急遽カレーに。
...肉じゃがでよかった。
材料、似てるし。
カレーに添えるためのサラダのためのレタスもちぎっていく。
することがたくさんあるあたしに話しかける寺島には忙しそうなあたしの姿は見えていないのだろうか。
「ブツブツ言ってないで、みんな集めときなさいよ」
「もう集まってる」
「...そう」
...いつもどおり、こんなときだけは団結力のある組だこと。
レタス3玉分をちぎり終わったあたしは大皿にそれを盛っていく。
大皿は3枚分にもなったけど、あたしが運ぶのではないから問題は無い。
あとは一番重要なご飯や福神漬など順番に準備していく。
...どれも恐ろしいほどの量。
見てるだけでお腹が張る。
「...出来たわよ」
なんて思いながらも何とか作り終えたご飯に笑みが溢れる。
...これだけ作れば、十分足りるでしょう。
いつもより多めに作ったし。
「おい、お前ら!飯が出来たってよ!!」
「「「うおおおおおおおお!!!」」」
ふぅ、と自分の中では満足したあたしが捲くっていたカッターシャツの袖を下ろす。
それを見た寺島が大声を出すと共に聞こえた雄叫びと、それに負けないような足音に耳を塞ぐ。
...どれだけお腹空かせてるのよ。
まるで肉に餓えたハイエナね。
笑顔のまま出来上がったご飯を運んでいく男たちに、まぁいっかなんて思っているあたしはなんだかんだ作ることが嫌いじゃないんだと思う。
「ありがとうございます!姐さん!!」
「分かったから。
残したらシバくから」
「残しません!!」
...本当、このときだけは癒されるんだよなぁ。
皆、あたしのご飯なんかで嬉しそうにするから。
あたしのご飯なんて、どんなに頑張っても普通の味だろうに。
「あいつ等は手作りに飢えてんだよ。
ここにはそういう奴がいっぱい居るからな」
だから、俺も感謝はしてんだよ。
...珍しく、あたしにふわりと微笑んだ寺島の顔にときめいたのは内緒。
「...ほら、寺島も早く行ってきたら?
みんな待ってるわよ」
「でも、」
「「「若ー!!!!」」」
「ね?」
「...分かった。葵は?」
あ、すっかり忘れてた。
呆れた顔の寺島に失笑を零す。
「まぁもう向こうに居るんじゃない?」
「また適当な...。
お前それでもあいつの姉貴かよ?」
「失礼な、姉じゃなかったらあたしはここに居ないでしょ」
誰があの馬鹿の説教してると思ってんのよ。
あたしよ?
さっきまでと違いふんぞり返る寺島に青筋を立てる。
やっぱりこいつだけは好かない。
「ま、お前のまずい飯でも食いにいくわ」
「そんな奴は食わなくていい!」
「え、なに?ありがとう?
それほどでも」
「むっかつく!!!」
こいつの分の料理、あいつらの誰かが食べてくれないだろうか?!
...ありえないけど。
ひらひらと手を振りながら、いつまでも呼び声の止まない大広間に寺島は歩いて行った。
「...ほんと、大っ嫌いなんだから...」
その背中を見ていると、なぜかあたしはさっきの優しい笑顔を思い出していた。
「...止めてくれる、気持ちが悪いから」
「あたしはアンタが大っ嫌いだと言ったはずだけど?」
ナルシストって訳じゃないけど、いつも女には困らなかった俺は、今すごく、
気になる女が居る。
会うたびに俺を睨み付けるあの目に、いつか映ってみたいと思う。
俺の悪口しか出てこないあの愛らしい唇に、触れてみたいと思う。
...世間的にはこれを恋だというのだろう。
だけど所詮、俺らの住む世界は違っている。
俺はこの気持ちを、伝える気はない。
...理性が絶えればの話だが。
たまに見せる、あの少し幼い笑顔を、自分のモノにしたい。
...そもそも、こんなに世界の違うあいつと出逢った理由は、全くあいつには関係のない出来事からだった。
……_____数ヶ月前、
俺は下からの連絡で、普段は出てこないネオン街に出てきていた。
かけすぎてキツすぎる香水に、うっとおしいくらいに腕を絡ませてくる女。
...イライラする。
なんで俺が下がやらかした問題に顔出さなきゃいけねぇんだよ。
はぁ、
ため息をついて腕にまとわりついたままの女を振り払う。
「面倒くさいなぁ。
俺に絡んできたのはそっちだろ?」
「あぁ?!
元はといえばそっちが...!!」
やっと女から開放された俺は少し早歩きで教えてもらった場所に向かうと、学生の男と下の奴が2人居た。
...全く、こんなとこでしかも学生になにやってんだか...。
「お前ら、何やって...」
「ちょっと、葵何してるの?!」
子供のように馬鹿騒ぎをする2人に一言言って止めさせようと口を開くと、女の怒鳴り声が隣から聞こえた。
「いてっ」
「いてっ、じゃない!!
こんな街のど真ん中で...。
希から電話が無かったら警察から電話が掛かってきたわよ?!」
「うるさいなぁ」
「...よし、分かった。
歯、食いしばりなさい」
「すみませんでした」
...なんだ、この茶番劇のような説教は...。
声が聞こえたと思えば隣にいた女はすでに男の前に行っていて。
遠慮なく平手打ちをする女に少し、興味を持ったのはこのとき。
てか、なんでこうなったんだ?
「おい、お前ら何してんだ」
「...すいません、若。
こいつからいつも街で暴れてる奴がいるって聞いて、少し話をと思ったら...」
「...喧嘩になったとでも?」
「「すいませんでした!!」」
「...はぁ」
牽制、とでも言いたいのだろうけど、いい迷惑だ。
結果、俺に連絡が回ってきてる時点でアウトだな。
2人の頭をとりあえず殴って、今もまだ騒いでいる男と女のところへ行き、頭を下げる。
「今回はすいません。
下の者が面倒なことをしたみたいで...」
「そうなんですか?
だけど、こちらにも非はあります。
ほら葵、謝りな」
「...いや」
「あ?」
「...すいませんでした」
声をかけた俺に顔を向けた女の顔は、一言で言うと綺麗。
ふっくらとした桜色の唇に薄茶のやわらかそうな髪。
...まぁ、性格には少し問題ありみたいだが。
「えと、それでは帰っても?」
「…あぁ」
「では、」
ヤバ、少し見とれてた。
謝らせるだけ謝らせた葵という男の腕を引いて歩いて行く女の背中を、じっと追いかけるように見る。
.........この日から、なぜか組の奴は皆葵という男に絡みに行った。
あいつは街で結構いつも暴れまわっているらしく、それに顔もそこそこいいから、ということで有名みたいだ。
そんな何度問題を起こしても懲りずに暴れるこの男にも、止めれもしないのに止めようとする組の奴らにも呆れた。
それでも俺が何も言わなかったのは、後から騒ぎを聞きつけて現れる女に一目だけでも会いたかったから。
でも俺は女の名前を知らない。
あの男はそういうことを分かっていて、女の名前を呼ばないのだろうか。
...まぁ本当は調べれば直ぐに分かることなんだが、なんとなく、女の口から直接聞いてみたかっただけなのだけど。
「…葵、アンタは懲りるという言葉が分からないの?
そんなに殴られたい?」
「あ、姉貴ー。
だってこいつ等しつこいんだよ」
「そう、殴ればいいのね」
「うぇー...」
そして今日も、女は走ってきた。
今回は家の奴等は結構殴られていて、血だらけ。
しかも気絶。こんな子供に。
あぁ、情けない。
「...おい、車用意しろ」
「はい」
倒れ痙攣している奴等に目をやりながら、車を運転させていた奴にもう一台車を用意させる。
...ったく、面倒くさい。
トントンッ
「、」
「本当、スイマセン。
家の馬鹿は怒(殺)っておきますので」
「ちょ、姉貴。
ぶっそうー」
「るさい。本当、ごめんなさい」
「...いや、いいですよ。
まぁこれ以上問題が起きれば、こちらは少し動かせていただきますが」
「動く、とは?」
葵という男の手首を捻りながら頭を下げる女に、ある考えが浮かぶ。
「その男を、家で預からせてください」
...この女は葵という男の保護者みたいなものなんだろう?
なら、問題児のこいつをどうにかするという理由で預かっていたら、この女と毎日会えるんじゃないか?
なんて、馬鹿な考えが。
...まぁこんなことに頷いてくれるはずも無いが。
はっきりと口に出してから後悔。
なのに、
「分かりました。そのときはお願いします」
え...?
女は頷いた。
「え?!」
すんなりと頷いた女に驚いた。
え、は?
そんなに簡単に頷いてもいいものなのか?
「ま、待って姉貴。
こいつ等の家がどんなのか分かって頷いて...」
「分かってるわよ。
この人たちの服を見れば、嫌でも」
「...なら、なんで?」
「あんたのために走るのは疲れたし、面倒くさいのよ」
「それに関しては、ごめん。
でもっ」
...簡単に頷いた女に不満げなこの男は、正しい。
この世界に片足突っ込んでいるだけはある。
そう、簡単に言ったものの、俺達の世界はそんなに甘くない。
下手すれば、巻き込まれて死ぬときもある。
「...あんたは、もう少しこの世界の怖さを知ったほうがいい。
片足を突っ込んでいるのなら、お世話になって教えてもらいな」
「...姉貴よりは知ってるつもりなんだけど。
それに俺強いし」
「いや、知らないわ。
あたしなんかより、ずっと。
それに、あたしより弱いわ。葵は」
...?
そう言い切った女の様子は、少し、雰囲気が違ったような気がした。