「好きな人とか、いるの?…――ちゃんの事、どう思ってる?」

 あいつの、この言葉がきっかけだった。

 他の奴が聞いたのなら、名前の出た子が自分に気があるのか…などと考え、例えその子が何とも思ってなかった子でも嬉しくなるのかもしれない。

 だけど、俺は違ってしまった。

 何よりも、あいつからそんな事を聞かれたくはなかった。

 ショックだったと言ってもいい。だから俺はそれを誤魔化そうとした。

「お前、そいつに頼まれたの?聞いてこいって。どうせ、小学校が同じだったから仲良いとでも思ったんだろうな。でもお前には教えねーし、答えてやんね」

 俺の言葉に茉莉奈は大きな目を丸くして驚いていたが、俯いて、

「何…それ…」

と絞り出すような声で言った。

 それが一瞬、泣いているようにも聞こえた俺が慌てて取り繕うとしても、もう遅かった。

「私、翔のこと友達だって思ってたのに…最低!こんな最低な奴だなんて思わなかった!」

 廊下中にヒステリックな茉莉奈の声が響いて、辺りが騒然とした。

 俺は皆から向けられる視線と、あいつを傷つけてしまった事に軽くパニックになっていた。