俺は塗装が剥げかけたブランコの左側に座る。茉莉奈は右側に座った。ブランコを前へ後ろへとゆったり揺らすときぃ、きぃ軋んだ。

「なぁ、茉莉奈」

 暫くブランコをこいでいたが、それを止めて口を開く。

「うん」

 隣を見るとあいつはただ前を向いて、傾き始めた太陽を見上げていた。

 夏の時はまだまだ日が高い時間だったのに、その様を見ると季節のかわりを感じた。

「…俺の事、嫌いじゃないのか?」

 俺は不思議な気持ちになりながらそう言った。

 嫌いだと、あの告白は嘘だったと、言ってほしいと望む、もう一方で…違うことを望んでいる。

 閑静な住宅地に、茉莉奈がブランコをこぎだした音だけが場違いに響く。

 そんな中「好きだよ」と、大事そうに、そして、その短い言葉の中に幾つもの気持ちを込めるように茉莉奈は言った。

「だって、ずっと好きだった、大好きだったの。だからこのままじゃ、嫌だった。私は翔が好きだから…このままじゃ…私、きっと、後悔するっ…から」

 だんだんと声が小さくなっていくのに、ブランコは動きを止めない。まるで、本当の茉莉奈を見せまいとするように。

 だから俺はあいつの乗ったブランコの、少し錆び付いた鎖を掴んでそれを止めた。

 茉莉奈は泣きながら何度も、何度も小さな声で「好き」と繰り返していた。