奥に行くと相川さんがいくつかの絵を前にして座っていた。
絵には白い布がかけてあって、どんな絵なのかは分からない。
「ちゃんと来たね、霧谷くん。夕希から伝言聞いたんだ」
「まぁ…」
「あははっ。急に呼び出したりしてごめんね。
霧谷くんにいいもの見せてあげようと思ってね」
「いいもの?」
「そ」
にこり、と相川さんは笑う。
「まぁ萌ちゃんが来ちゃって予定は狂ったけど、これはこれで見物かな」
「?」
どうしてそこに萌が出てくるんだ?
萌も不思議そうな顔をしている。
目線を戻すと相川さんと目が合った。
にやりとした笑みを浮かべて絵の布に手をかける。
「萌ちゃんは覚えてるかな〜?タイトルは、"天使の眠り"だよ〜」
「ええぇっ!?まっ……!!」
タイトルを聞いて真っ赤になる萌をよそに、絵の上にかかっていた布は取られた。
「…………は?」
この、絵………
「いやあぁぁ〜〜!!!
霧谷くん見ないで〜〜〜!!」
「ダメだって萌ちゃん。霧谷くんに見せるためにわざわざ家から持って来たんだよ?」
「酷いです未希さん!!離して〜〜〜!!」
「だからダメだってばぁ」
相川さんは絵を隠そうとした萌を後ろから抱き締めるように拘束した。
「どう、霧谷くん。いい絵でしょ?」
「え、と……」
どう反応すればいいんだ。
萌に視線を向けると、顔を真っ赤にして目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「この絵ね、前に夕希ともいっしょに山に行ったときに描いたの。
会ったときから萌ちゃんをモデルに描きたかったんだけど、なかなか許可してくれなくてね。
部屋を覗いたとき、あまりに気持ちよさそうに寝てたから、つい……」
あはは、と相川さんは笑うけど、萌は真っ赤な顔で泣きそうになっていた。