「ねぇ、霧谷くん。未希さんの用事って何かな?」


「さぁ……僕も詳しいことは知らないんです」



あの教室に向かう廊下を歩きながら、萌が少し上目遣いで俺を見上げて聞く。



……これが無自覚だからたちが悪い。




相田と陸真といつもの空き教室で四人でお昼を食べてから、俺と萌はあの教室に向かっていた。


相川さんのところに行くと言ったら、萌は相田も誘っていたが相田は苦笑いで断っていた。


と言うか若干笑顔が引きつっていたような……


相田は何か隠していると思う。


何かは知らないけどな。



「うーん……霧谷くんはかっこいいから……もしかして未希さん、諦めてなかったりして………」



ぶつぶつと言いながら、何か考えているように歩く萌。


歩くたびに綺麗な栗色の長い髪がさらりと揺れて、白いうなじが見える。



……そういえば文化祭のとき、ここにキスマーク付けたっけ。


萌は気づいてなかったみたいだけど。


普段は髪も下ろしているし、教室のやつらも気づいていなかった。


相田が見せないするようにしていたせいってのもあるか。



はっきり言って、チャイナ服姿の萌は滅茶苦茶かわいかった。


見られてたけど、男の視線とか萌は気づいてなかったんだろうな……


それが少しムカついて、つい付けてしまった。


つまらない俺の嫉妬。



……ほんと、俺ってガキだよな。



「霧谷くん……気を付けてね」


「はい?」


「霧谷くんはかっこいいから!」


「………?」



何言ってるのか分からないけど、俺からしたら萌の方が気を付けてほしい。



「あ、着いたよ」



あれこれ考えている間にあの教室に着いていた。



「こんにちは、未希さんいますか?」


「あ、萌ちゃんだぁ。いいよ〜、入って来て」



奥から相川さんの声が聞こえる。



「行こう、霧谷くん」



にこり、と笑顔を浮かべて萌は奥に進む。


気にせず進んでいるが……いいのか?