「相田さん。これ使って下さい」
「え、いいの?」
「はい」
………あれ?
「でも、そうしたら霧谷も傘無くなっちゃうわよ?」
「大丈夫ですよ。家、結構近いので、走ればなんとかなります」
「萌の家は結構遠いわよ?」
「大丈夫です。僕の家で傘貸してあげますから」
んん?
二人とも何の話をしてるの?
「そう。じゃあ遠慮なく貸してもらうわ。ありがと、霧谷」
「どういたしまして」
ゆっちゃんは霧谷くんの傘をその手にとり、さっさと帰ってしまった。
……え、霧谷くんゆっちゃんと一緒に帰らないの?
「じゃあ、萌これ被って」
「へ?わっ」
バサッと霧谷くんの制服のブレザーがあたしの頭に降ってくる。
「ちょっと走るけど頑張ってね」
「え?」
そのまま霧谷くんに手を引かれて、あたしは霧谷くんの家に来た。
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そして現在に至る。
き、緊張するよぉ……
ご両親は今はいないって言ってたけど、あたし勝手に入ったりしてもいいのかな。
はっ!それより、霧谷くん濡れてたけど大丈夫なのかな。
あたしのせいで風邪ひいちゃうんじゃ……
ど、どうしよう!
あわあわと不審な動きをしているとガチャ、と扉が開いた。
「これ前に借りてた辞書……」
「……へ」
「あら?」
…………誰?
す、すっごく綺麗な人だな。
明るい茶色の髪は腰まであって緩く巻いている。
ぱっちりとした綺麗な黒い目に薄めの唇。
ピンク色のワンピースが似合っている。
「えっ、と……」
「もしかして流の彼女さん?」
あたしはこくんと頷いた。
この人、霧谷くんのこと呼び捨てに……霧谷くんのお知り合いなのかな。