……むかつく。



「………ちっ」


「舌打ちするなよ」



ケラケラと笑っている陸真を一度睨みつけてから、俺は辞書を元の位置に戻した。



……今回ばかりは陸真に感謝してないわけじゃないからな。



「流さー、結構前から桃ちゃんのこと好きだったじゃん?」



ぴくりと体が揺れる。


陸真はにやにやしながらいつから〜?と聞いてきた。



「……なんでお前にそんなこと言わなきゃならないんだよ」


「いいじゃん。仲立ちしてあげたお礼、ってことで♪」


「頼んでないし」



なんだよケチー、と言って拗ねる陸真……めんどくせぇ。


いつものことだけど。



はぁ、とため息をつく。




「お前が気づいたのはいつなわけ?」


「ん?んーと、二年になるちょい前。そん時は"こいつ桃ちゃんのこと気になってるのかなー"ぐらいだったけど。
それからしばらくして気づいた」


「…………」



こいつ無駄に鋭いな。



「好きになったのはそれよりずっと前。気づいたのはそれより少し前ぐらい」


「えっ、マジ?何?何がきっかけなわけ?」



答えたことが余程嬉しかったのか、期待している目で俺を見てくる。


でもそんなところまで教える程俺は優しくない。



「うるせーよ。もう帰れ」


「ちぇー。まぁいいや。流の照れた顔とかレアなもの見れたし」


「はやく帰れ」



ぐっとまた辞書を手に取る。



「おー、こわ。じゃあまた明日、学校でな〜」



ひらひらと手を振って陸真は帰っていった。






「きっかけ、か……」




静かになった部屋に、俺の声が響いた。