怖かった……もう本当に怖かった。
流が来てくれなかったら……
「あんた、人の彼女に何やってんの?」
流の鋭い声が辺りの空気を切り裂く。
聞いたこともない冷たい声で思わず体に力が入るけど、流は優しく頭を撫でてくれて。
ホッとする。
「本当はぶっ潰してやりたいけど、今回は見逃してやる。
……さっさと失せろ」
流に気圧されたのか、佐藤くんは舌打ちをしてここからいなくなった。
「萌、歩ける?」
流の問いにあたしは情けないけどふるふると首を振った。
だって、怖くて足が震えるんだもん。
絶対歩けない……
それに、今は流に触れていないと佐藤くんに触れられた嫌な感触を思い出してしまいそうで。
更にギュッと流の首筋に抱きつき、肩に顔を埋める。
「じゃあ掴まってて。移動するよ」
直後、ふわりとあたしの体が浮いた。
お姫さま抱っこをされてるんだと分かったけど、今はそんなに恥ずかしいと思わない。
恐怖の方が上回っているんだと思う。
しばらく歩いて、着いたのは普段ゆっちゃんたちと使っているところとは違う空き教室。
少し埃っぽいから使われていないんだと思う。
中から鍵をかけて、流はあたしを抱えたまま器用に地面に腰を下ろす。
「……遅くなって、ごめんな」
不意に、ぽつりと流が言葉を落とす。
あたしはそれに首を振った。
「流が、来てくれたから、あたし……」
続きを言おうとしてグッと唇を噛む。
じゃないとまた落ち着いた涙が溢れそうで。
「こっち向いて」
「、あ……」
逃げらないように頬を両手で挟まれて、流の方に向けさせられる。
あたしを見て流は眉を少しだけひそめて、荒々しく唇を重ねた。