やだ……嫌だよ、流っ



「佐藤くんっ、お願い、離して!」


「いい反応だね、桃園さん。……キスでもしたら俺と付き合ってくれるかな?」



佐藤くんはゾクッと体が震えるような笑顔を浮かべる。


どうして佐藤くんを爽やかな人だと思ったのか、自分でも不思議なぐらい。


どんどん近づいてくる顔に泣きたくなる。


顔をそらしたくても動かせることができない。


体も、逃げることができない。


ジワリと歪んだ視界の中、流の姿が浮かぶ。




「……ながれ、たすけてっ」




思わずギュッと強く目を瞑る。


息がかかるぐらい近い気配に、嫌な気持ちが心を占める。


もうダメだと思ったとき、うわ、という佐藤くんの声と一緒にあたしの大好きな香りがあたしを包んだ。



「な、がれ……?」



目を閉じてても、間違えたりなんかしない。


流のこと、間違えたりなんて……



ふるふると瞼を上げると、目の前にはやっぱり流の姿があって。


安心からポロ、と涙がこぼれる。



「ながれ…流っ……!!」



思わず抱きついたあたしを、流は抱き締めてくれた。


流がそばにいてくれるだけですごく、ホッとしてる。


やっぱり、あたしは流じゃないとダメなんだ。


ふぇ、と泣き始めたあたしの頭を流は優しく撫でてくれる。


その手に強ばっていた体から力が抜ける。



「萌、大丈夫か?」


「ふっ…ぅん……」



こくこくと頷くけど、やっぱりまだ思い出すと体が震える。