「送ってくれてありがとね、霧谷くん」
萌を家まで送り、門を挟んで俺と萌は向かい合った。
「こっちこそありがと。これ、大切にする」
時計を着けた手を指して言うと、嬉しそうに萌は笑った。
あー……ここまで来てなんだけど、率直な意見を言うと帰したくはないな、うん。
今日の萌、かわいいし。
「じゃあ……またね」
あからさまにしゅん、となる萌に、俺と同じことを考えているんだな、と思ってつい笑みがこぼれる。
体は自然に動いて、俺は萌にキスをしていた。
「帰ったら、メールする」
「う、ん…」
頬の赤い萌に微笑んで、俺は自分の家に帰った。
――――――――――――――――――
――――
「ただい、ま……」
さっきまで萌と俺しかいなかった家に見慣れた靴が置いてあった。
この靴……
ため息をつきながら俺はリビングの方に向かった。
「あ、お帰り〜。ねぇねぇ兄貴、これ食べていい?」
「やっぱり優か」
「やだな兄貴、いつも言ってんじゃん!
この格好のときはボクのことはユウって呼んでよ」
それなら一人称も変えろよ、と思ったが口には出さない。
優には優のポリシーみたいなのがあるらしい。
「それより兄貴、これ〜食べていい?」
優がその手に持っているのは、今日萌が持ってきたケーキ。
どうするか……
確かに俺一人で食べきるのは無理だからな。
「いいよ。ただし、母さんたちの分は残しといて」
自慢するから。
「はーい」
嬉しそうに返事をして、優はケーキを切り分ける。
優は俺と違って甘いものが好きだからな。
言っておかないと全部食べられる。