「る、流川…だよね…」


 
自分に言い聞かせるようにつぶやいて。

 
でもやっぱり振り向けずに、ただ歩みだけを早める。

 
私に合わせるように着いて来る靴音は、わき道に逸れるような感じもしない。

 
確実に、追って来る。



「どうしよう…どうしよう…」


 
怖くてたまらない。

 
流川だよね…?

 
そうだよね…?

 
おもしろがって…それで…


 
でも。

 
流川なら、もうとっくに私の腕をつかんでるはずで。

 
なによりも。

 
何時間も前に部屋を出ていった流川が、こんなところにいるはずもなくって。


 
高まる緊張に。

 
私は泣き出しそうになっていた。


 
一握りの望みをかけて、ポケットから取り出したメモ用紙。

 
流川の、番号。

 
もしも、着けて来るのが流川なら。

 
後ろから着信音がなるはずだ。

 
電話に出れば、声だって。


 
震える指で、書かれた番号を押していく。

 
震えがひどくって、何度も押し間違えた。


 
耳に当てた携帯の向こうで鳴り続けるコール音。



「流川じゃない…」


 
背後からは、着信音らしいものは聞こえなかった。



「…流川っ…出て…」


 
祈るような気持ちで、コール音の次に聞こえてくるはずの流川の声を待った。