電柱の陰とか、公園のベンチとか、
無いとは思ったけれど、ゴミ置き場とか。
目に付くところは見て回って。
人影は見当たらなかった。
「ふう…良かった」
一安心。
コンビニでボトル入りの紅茶を買って、もと来た道を引き帰すことにした。
店を出るときに、入ってきた若い男の人の肩にぶつかって。
「あ、すみません」
謝りながら顔を見上げた。
男の人は無表情で。
腰にぶら下げられている束になったキーホルダーだけが、ジャラジャラと揺れていた。
ぺこり。
もう一回頭をさげて、私はアパートへ向かった。
誰も通らない道を、足早に歩く。
急いでいるから喉が渇いて、ボトルの紅茶を飲みながら前に進む。
通りには私の靴音しか響いていない。
ときどき水溜りに足を入れてしまって、つま先が冷たくなっている。
「はあ…帰ったらもう一回お風呂に入ろうっと」
湿気でべたつく腕をさすった。
と同時に手からボトルが滑り落ちて。
しゃがみこもうと立ち止まったとき。
ぱしゃ……
―――え…?
私しか歩いていなかったはずの道に。
立ち止まった私のじゃない、誰かが立てる、靴音。
後ろから微かに聞こえて。
……びくっ…
私の心臓が、跳ね上がった。