実は最近、この辺りで変質者が頻繁に現れているのだ。
程度の差はあるけれど、いきなりカラダを触られたり、
目の前に…その…下半身をむき出しにして現れてみたり、
ひどい例では、部屋のなかにまで上がり込まれた、なんて情報もある。
私が流川を変質者じゃないかと疑ったのも、実はそこに理由があって。
つい一週間前も、隣りの隣りのアパートの女の人が被害にあったらしく…
しかもそれが、全部、夜に起こった被害で。
最近、夜になると、この辺を歩く人はめっきり減っているのだ。
女の人はなおさら、夜道の一人歩きなんて避けている。
「こ、怖くない、怖くない」
重い足を持ち上げて急ぐ帰り道。
雨のせいで、余計に距離が長く感じられて。
ぴしゃっと後ろで雨音が高く鳴るたびに、私の心臓は跳ね上がる。
「や、やっぱり怖い…要くん…怖いよぉ」
ご飯なんて我慢するんだった…
だんだん全身が湿ってくると、心細さはもっと増してくる。
「よし。ラストスパートだ。走ろう」
再び走り出そうと、カラダを前かがみに倒した、そのとき――
後ろから、がしっと右腕をつかまれた。
「―――っ!!」
ひんやりとした手のひらの感触に、驚いて声が出ない。
息が咽につまる。
全身が硬直する。
や、やだ、やだ、やだっ!
怖いっ……