バイトを終えた私と麻紀は、今日は寄り道しないで真っ直ぐに帰ることにした。

 
今朝、麻紀は彼とケンカして部屋を出てきたらしく、「あんなヤツ知らない」なんて言ってはいるけれど、気にかかっているみたいで。

 
甘党の彼氏に、「ケーキでも買って帰る」なんて言って。

 
駅前のケーキ屋さんに立ち寄って、真剣な顔つきでひとつひとつ吟味していた。

 
目、目が怖いよ、麻紀。

 
ケーキをそんなに睨んでどうすんの。

 
店員さん、引きつってるって。

 
ま、そんなところは、顔どおり、麻紀の可愛いところなんだけどね。

 

「じゃ、また来週ね、唯衣」


「うん、またね」


 
明日は久々にバイトが休みの日。

 
学校も休みだから、な~んにも予定なし。

 
要くんもいないし。



「はあ…恐ろしく退屈」


 
ぶんぶんと手をふって改札を抜ける麻紀の後ろ姿を見送る。

 
ありゃ~… あんなに手、振って。

 
ケーキ、入ってること忘れちゃいませんか?


箱を開けたときの彼氏の反応、見ものだな。。


 
電車に乗って自分の駅に着くと、空気がどんよりしていた。

 
ムシムシする。雨が降りそうな感じの重い酸素。

 
私は早足で要くんのアパートに戻った。



「ただいまぁ」


 
誰もいないアパートの部屋の電気を点ける。

 
こういうとき、ちょっと寂しい。


 
「あれ?」


 
ソファの上に、流川のパンツ。

 
今朝、私が恐る恐るたたんだやつだ。



「まだ…荷物取りに来てないのか」


 
ベッドサイドを見ると、流川の大きな荷物入りバッグもそのまま放置してあって。

 
あれから誰かがこの部屋に入った形跡も、ない。


 
「これから来るのかな」


 
時計を見ると、6時半。

 
私はソファの上の流川のパンツを取り上げて、大きなバッグの上にそっと乗せた。