「吉沢さんっ! 早坂さんっ! おしゃべりは後にしてちょうだいね!」
怖い顔で私たちを注意したのは、店長の仲田雪乃(なかたゆきの)さん。
長い黒髪を頭の高い位置できゅっと結んだ雪乃さんは、エプロンの紐を結び直しながら、渋い顔だ。
「はいっ。すみませんっ」
私と麻紀は背筋を伸ばして仕事に戻った。
雪乃さん、普段はとても温和な顔をした優しい人。
いろんなことを相談できる頼れるお姉さんって感じの人で。
だけど、仕事のことになると、かなり厳しい!
「お給料、引いちゃうからね!」
後ろからさらにあおられて、私と麻紀は顔を見合わせて苦笑した。
「唯衣、終わったらどこかで話して行こ」
雪乃さんの目を盗んで、ひそひそと麻紀が私に耳打ちした。
こくり。
それに頷いて、私はお客様の待つテーブルにハンバーグを運ぶ。
朝、あまりにも早く流川に起こされたせいで、頭がぼんやりしてて。
水をこぼしたり、注文を間違えたり。
一日中、めちゃくちゃで…
何度も店長に怒られて…
くそーっ、流川めっ!
呪ってやるっ!
「吉沢さんっ」
「はいぃぃっ!」
コップに入れる氷に八つ当たりしてたら、また雪乃さんに怒られた。
バイト代が入らなかったら、絶対、アイツのせいだっ!