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「つ、着いた…」


 半分エンスト状態で止まった車は、旅館の入口ギリギリに寄せられている。


「危ねーな。突っ込んでたらどうすんだ」

「はぁ… 良かったぁ。無事着いて」


 聞いてるのか聞いていないのか。


「あ、仲居さん、いたっ! きゃ~」


 着くなりさっさと降りやがって。

 無視か。俺のことは。


「吉沢唯衣さま!お待ちしておりましたぁ」

「本条栄莉さんっ。お久しぶりですっ」

「ええー、名前、覚えてくれたんですかぁ。嬉しいですぅ」

「麻紀のとこにハガキもらったでしょ? 二人で言ってたの、あの天然仲居さん元気かねって」

「ええ~、天然記念物ですかぁ、私。そんなに大したもんじゃないですぅ」

「ぶぶぶーー!」



 …………。



 入口で腹を抱えて笑い転げる姿を横目に、カエルと荷物を後部座席から引っ張り出すと、


「あー、カエルさんも! お久しぶりです。車酔い、今日は大丈夫ですかぁ」


 …アンタが大丈夫か? マジで。



「流川直人っ。私、自分の荷物は自分で持つからねっ」

「…ああ、そうしろ」


 コイツは人の名前をフルネームで呼ぶのがクセなのか。

 コイツだけじゃない、あの友達も。

 数ヶ月で変な連中ばかりが周りに集まりやがった。

 俺の生活も、随分にぎやかになったもんだ。

 

 荷物を手渡す。

 何でオンナの荷物はいつもこう大袈裟にデカイんだ。

 畳廊下を、仲居と二人がかりで荷物を運ぶ姿を後ろから眺めながら、意味もなく笑いが漏れる。


 やべぇな、俺も。