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 あの夜。

 コイツにしてしまったことを考えるといたたまれない。

 力任せにすることじゃなかった。

 
 もしもコイツが泣かなかったら…

 俺は何も考えず、ただ闇雲にコイツを抱いちまったろう。

 そのあとに残る感情は、

 たぶん切なさだけだったはずだ。



 
 まさかあんな場所で要に会うとは。

 しかもオンナ連れだ。


 すぐに浮かんだのはコイツの顔で。

 気づけば要の胸ぐらをつかんでいた。


 しかし、隣りのオンナ、あれはねーだろ。

 グラスで殴りかかってくるとは思いもよらなかった。

 それだけ要にマジだってことか。

 殴り返すこともできず、ただ要には言いたいことだけは言っておいたが、

 結局、コイツにも全部バレちまって。


 本当に、吹っ切れたんだろうか。

 はっきりと言葉にはしないが、ひどく落ち込んだのは確かだろう。


 電話の向こうで震える声。

 聞きたくもねぇ回想を俺に話したくらいだ。

 思い出も、十分すぎるくらい鮮やかに残ってるだろう。


 それでも自分でケリをつけて。

 コイツにしてはよくやったと思う。


 どんな話を二人でしたのか、詳しく聞くつもりはねぇが。


 こうして鼻の頭に汗をにじませて、よくわかんねーが一生懸命な姿を見ると、

 自分のしたことを棚にあげておいて何なんだが、

 それなりに安心する。