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 車は赤い橋に差し掛かる。


「気をつけろよ」

「わかってるって」


 運転席で縮こまる姿に、俺の足にもチカラが入る。


「あんまり端に寄るなって」

「キープレフト!」

「…この場所でそれは守る必要ねーから。もっと右に寄れ!」

「う、うるさいっ。黙ってて!」


 …勘弁してくれ。

 まだ死にたくねーぞ。


 近すぎる欄干の、遥か下に流れる深い川。


「ふうぅ…」

「………」


 無事渡りきると、コイツは安心したようにハンドルから少し離れた。


「何でいきなり旅行なんて思いついたんだよ」


 横顔を眺めながら聞くと、


「ハガキが来たの。本条栄莉さん…あの仲居さんから」


 チラリとだけ視線をこっちに向けて、すぐに前を見たコイツは、


「どっかいい場所ないかなぁって思ってたときだったから、調度いいなって思ってさ。これも偶然かな。それとも、またカエルのおかげかな」


 ブツブツブツブツ、独り言みたいに言っている。


 後部座席を振り返ると、口をあけて笑うカエル。

 椅子にふんぞり返って、いい気なもんだ。

 コイツの運転、お前は怖くねーのか。


 …って俺は何をぬいぐるみに問いかけてるんだ。

 コイツの影響、もろに出てやがる。



 しかし何でいきなり旅行なんだ。

 いい場所って、意味わかんねーし。

 
 何件かの旅館のわきを過ぎて、さらに奥に続く一本道。

 通りながら、コイツの友達と、その彼氏を思い出す。

 
 もう一度会ってみてもいいかもな、

 あの日の夕食を思い出しながら、窓越しの紅葉を眺める。


 あれから二ヶ月か。

 早いもんだ。