「むむむかっ!」


 振り上げたのは。

 こぶし。


 あ、これじゃパンチになっちゃう。

 ビンタにしとこうと思ったんだけど。

 
 まあ、いいっ!

 どっちでもっ。


 この際、その傷、ひろげてやるっ。

 そうすれば、アンタが口を開く回数も減るってもんでしょっ。



「流川っ! 覚悟っ!!」



 振りかぶり。

 ほっぺためがけて、こぶしを突き出せば。



「なにが覚悟だ。バカ」



 ぱふ。


 あっさり捕まる、流川の手のひら。


 
「の、のけっ! その手をのけっ!」


 ぎゅうぎゅう、こぶしを押し付けて。

 全身にチカラを込めるも、効果なし。


「一発、やらせろっ!!」

「……なんだそのセリフ。デカイ声で騒ぐな。恥ずかしい」

「む、む、むぅぅ!!」


 暴れる私の肩を。


「うるせーんだよ」


 流川の腕が、捕獲する。


「この、ジャジャ馬」


 言いながら。

 その腕にチカラが込められて。


 私が傾いた先。


 ぎゅうっっ…と。

 
 流川の、胸のなか。


「……っ」


 背中と頭。

 押さえつけられて。


「憶えとけよ」


 耳にかかる、熱い息。


「俺に手をあげたからには…」


 ピアスに、唇が触れて。

 きゅん…と逆流しそうな体中の血液。


「容赦しないからな、次は」


 一瞬離れた唇は。


「覚悟するのは、お前だ」


 ささやくように言葉を落とす。


 
 ぶるっと全身が震えてしまうほど。

 チカラが抜けてしまうほど。


 
 ……ダメだ、やっぱり。


 …かなわない。